プロトタイプまで作って、あとはエンジニアに渡す|発注が上手くなる進め方
事業開発の人がAIで得るのは「全部作れる力」ではなく「途中まで作れる力」です。試作品を自分で作ると、発注の精度が上がります。渡すときに揃えるもの5つも紹介します。
「作れないから、まず要件定義書を書く」。事業開発の現場で長く当たり前だった進め方が、変わりつつあります。自分で試作品まで作ってしまい、そこから先をエンジニアに渡す。 この記事は、その現実的な進め方をまとめたものです。発注する側の話でもあります。
まず結論
事業開発の人がAIで得られるのは「全部作れる力」ではなく、「途中まで作れる力」です。
そして、この「途中まで」には、想像以上の価値があります。理由は2つあります。
- 本当に必要かどうかを、発注する前に確かめられる
- 発注するときの説明が、圧倒的に正確になる
作れるようになることより、発注が上手くなることのほうが、効果としては大きいかもしれません。
これまでの発注で、何が起きていたか
思い当たる人は多いと思います。
これまで
- 1アイデアを考える
- 2エンジニアを探す
- 3作りたいものを説明する
- 4数十万〜数百万円を払う
- 5数週間〜数か月待つ
いま
- 1アイデアを考える
- 2AIに「こんなものを作りたい」と相談する
- 3その日のうちに動くものができる
要件定義書を書き、見積もりを取り、数か月待つ。出てきたものを見て「思っていたのと違う」となり、修正を依頼し、また待つ。
ズレの原因は、たいてい能力ではなく伝達です。 頭の中にある動きを、文章と静止画だけで正確に伝えるのは、そもそも無理があります。
そして、もっと痛いのがこちらです。苦労して作ったものが、実は誰にも必要とされていなかった。 数百万円と数か月を使ったあとで、それがわかります。
「途中まで作る」で何が変わるか
1. 必要かどうかを、先に確かめられる
試作品を数日で作り、10人に使ってもらう。ここで反応が悪ければ、発注しないという判断ができます。
これがいちばん大きな効果です。節約できるのは開発費そのものではなく、要らないものを作ってしまう損失です。
2. 仕様書の代わりになる
動くものがあれば、「これと同じ動きで、もっとちゃんとしたものを作ってほしい」と言えます。
画面遷移、入力項目、エラー時の見せ方。 文章で書くと膨大になる情報が、動くもの1つで伝わります。
3. 見積もりの中身がわかる
自分で一度作ってみると、何が簡単で何が大変かの感覚がつかめます。
「この機能は重いです」と言われたときに、それが妥当かどうかを判断できるようになります。逆に「これは要らないので削ってください」とも言えます。
4. エンジニアとの関係が変わる
丸投げされる側の負担は、実は「何を作るか決まっていないこと」から生まれます。
動くものと、それを作った経験を持って相談に来る人は、歓迎されます。 会話が早いからです。
どこまで自分で作り、どこから渡すか
ここが本題です。線引きを間違えると、かえって手戻りが増えます。
自分とAIでできることが多い
- 自分や友達だけで使うツール
- 学校や会社の中だけで使うツール
- アイデアを試すための試作品
- 利用者が少ない小さなサービス
専門家の知識が重要になる
- 他人の個人情報を預かる
- お金のやりとりをする
- 利用者が一気に増えたとき
- 動かなくなったときの復旧
自分で作るべき範囲
「これが成り立つかを確かめる」ための最小限です。
- 中心となる体験が1本通ること(予約が完了する、注文が届く、など)
- 数人〜数十人が試せること
- 見た目は最低限で構わない
渡すべき範囲
「多くの人が毎日使っても壊れない」ようにする部分です。
- 他人の個人情報を安全に扱う
- お金のやりとり
- 人が増えても止まらない構造
- 障害が起きたときの復旧
- 長く直しやすい形に整える
この境界を自分で判断できることが、実は最大の成果です。
渡すときに、そのまま使える整理
試作品ができたら、次を用意して渡すと話が早くなります。
- 1
動く試作品そのもの
画面を触ってもらうのが、いちばん正確な仕様の伝達になります。
- 2
検証した結果
何人に使ってもらい、どこで詰まったか。これが要件の裏づけになります。
- 3
残っている課題のリスト
自分で気づいている未対応部分を、隠さず全部書きます。
- 4
作り直してよい範囲の明示
「中身は全部作り直して構わない」と伝えると、相手は判断しやすくなります。
- 5
想定する利用規模と期限
何人が、いつから使うのか。設計の前提になります。
3番目が特に重要です
「動いているように見えるが、たぶん危ない場所」を自分から申告してください。
たとえばこういう項目です。
- 他人のデータが見えてしまわないか、確認できていない
- ログインの仕組みが簡易的なままになっている
- データが消えたときに戻せるようにしていない
隠すと、相手は一から調べ直すことになります。先に言うほうが、結果的に安く早く済みます。
試作品を作るときの、具体的な指示
「途中まで作る」と言っても、どこまでをどう頼めばいいのかがわからないと動けません。実際に使える指示を挙げます。
最初の指示
新規事業の検証用に、試作品を作りたいです。
本番で使うものではなく、10人くらいに触ってもらって
需要があるかを確かめるためのものです。
作りたいもの:
・(中心となる体験を1つだけ書く)
条件:
・凝った作りは不要です。動くことを優先してください
・データの保存は Supabase、公開は Vercel で、無料の範囲でお願いします
・あとでエンジニアに引き継ぐので、複雑にしないでください
「本番で使うものではない」と最初に伝えるのが重要です。 これを言わないと、本格的な構成を提案されて、必要以上に時間がかかります。
引き継ぐ前に出す指示
渡す前に、自分で把握しておくべきことをAIに整理させます。
この試作品をエンジニアに引き継ぎます。
引き継ぎ資料として、次をまとめてください。
1. どういう画面と機能があるか(一覧)
2. データをどこに、どういう形で保存しているか
3. 本番で使うには足りていない部分(安全面・性能面)
4. 特に作り直したほうがよいと思う箇所と、その理由
正直に書いてください。よく見せる必要はありません。
3番と4番が、そのまま引き継ぎ資料になります。 これがあると、受け取る側は調べ直す手間が減ります。
使う道具は、あらかじめ揃えておく
引き継ぎを見越すなら、エンジニアが扱い慣れた構成にしておくと話が早くなります。実際によく使われるのは次の組み合わせです。
- Supabase(スーパーベース)
- データの保存先です。予約や会員情報などをためておきます。「本人のデータしか見せない」という制限を保存側に設定できるため、権限の抜けに強くなります。
- Vercel(バーセル)
- サイトの公開先です。作ったものをインターネット上で使える状態にします。サーバーの管理が不要で、1人でも運用の手間が増えません。
- Stripe(ストライプ)
- 決済の仕組みです。お金のやりとりが必要な場合に使います。カード情報を自社で保持しなくて済むため、扱いが安全になります。
この3つで作っておけば、「よくある構成なので引き継ぎやすい」と言われることが多いです。 逆に、珍しい構成にすると引き継ぎのコストが上がります。
「作り直してください」と言えるかどうか
多くの人がここでつまずきます。自分で作ったものに愛着が湧いて、「これを活かして」と言ってしまうのです。
しかし試作品は、確かめるために作ったものです。長く使う前提では作られていません。
65%
AIに任せて作られたアプリのうち、調査で弱点が見つかったものの割合です。試作品をそのまま本番にすると、この確率を引き受けることになります。
「中身は捨ててもらって構いません。動きだけ再現してください」 と言えると、話が早くなります。
試作品の価値は、コードではなくそこで得られた判断材料にあります。
よくある失敗
そのまま本番で使ってしまう
いちばん多い失敗です。「動いているから、このまま公開しよう」 となり、確認しないまま利用者に開放してしまいます。
他人の情報を預かるなら、必ず確認してください。項目はAIでアプリができた!でも、そのまま公開して大丈夫?にまとめました。
作り込みすぎる
確かめるためのものなのに、細部を整えすぎてしまいます。恥ずかしいくらいで渡すのが正解です。
検証を飛ばす
作ることが目的になり、使ってもらう工程を省略してしまいます。それでは以前と同じで、必要ないものを作るリスクが残ったままです。
この進め方が向いている人
- 事業開発・新規事業の担当者
- プロダクトマネージャー
- 起業を考えている人
- 発注する側の立場にいる人
技術者になりたい人ではなく、「判断の質を上げたい人」に向いた進め方です。
よくある質問
Q. 試作品はどれくらいの期間で作れますか? A. 中心となる機能1本なら、数時間から数日です。作り方は予約サイトを1時間で作るで、実際の指示ごと公開しています。
Q. エンジニアに嫌がられませんか? A. 丸投げよりは歓迎されることが多いです。ただし**「これをそのまま使って」は嫌がられます。** 「動きの参考にしてください、中身は作り直して構いません」と伝えてください。
Q. 社内にエンジニアがいない場合は? A. 試作品があると、外部に相談するときの精度も上がります。見積もりの比較もしやすくなります。
Q. 自分で全部作れるようになったほうがよいのでは? A. 目的次第です。ただし個人情報やお金を扱うサービスを1人で運用し続けるのは、想像以上に負担が大きいです。線を引いたほうが、事業としては前に進みます。
Q. どこまで作れば「渡せる」状態ですか? A. 中心となる体験が1本通っていれば十分です。 完璧である必要はありません。
まとめ
- 事業開発の人が得るのは「全部作れる力」ではなく**「途中まで作れる力」**
- 効果は、作れることより発注が上手くなることにある
- 試作品+検証結果+課題リストを揃えて渡すと、見積もりの精度が上がる
- 「中身は作り直して構いません」と言えるかが分かれ目
- 試作品の価値はコードではなく、そこで得た判断材料にある